サウンドスケープ(音の風景)という用語は、ともすると視覚優位になりがちなランドスケープ(景観/風景)という用語に、音の世界を切り口に身体性を取り戻すためのものであると位置付けることができます。そのため、サウンドスケープ概念には当初から、ある種のデザイン概念が含まれていると言えます。「音の風景」というイメージをもって周囲に自分の身体を開いていくと、そこには新たな風景が立ち現れ、そうしたなかで新たな思索が展開する… そうした意味で、サウンドスケープというコンセプトを踏まえたとき「デザイン」という活動は「思索や調査」、さらには「エデュケーション」といった領域にも及びます。ここでは主に施工・実施されたプロジェクト、デザインに関するイベント等について紹介します。



●主要プロジェクトリスト  (  )内は監修者あるいは制作者等 *は鳥越けい子を含む組織

西鶴屋橋音響計画
1988年 事業依頼者:横浜市道路局橋梁課(GK設計/サウンドスケープデザイン研究所*) 横浜駅西口近くの派新田間川にかかる西鶴屋橋が改修されるに伴い、橋梁の欄干部分に、橋そのものおよび周囲の音環境の振動エネルギーを拾って微小な音が発音する仕組みの装置を設置したもの。この小さな音に耳を傾けることで、日々ここを通行する人々の閉鎖的な耳を環境に開き、さらに劣悪な都市の音環境、空間全体への意識の高揚を目指した。




西鶴屋橋

横浜博覧会会場音響デザイン
1989年3月 事業依頼者:横浜博覧会協会(GK設計/サウンドスケープデザイン研究機構*) 平成元年、横浜市で開催された横浜博覧会において、さまざまなレベルで展開した会場全体の音環境計画を担当した。具体的には、基本方針としての「音憲章」の策定、音環境の特性を踏まえた「敷地利用計画」への提案、横浜港の波の音をリアルタイムで聞くことのできる「サウンドブイ」の開発、人の動きに反応して鳴る「大地のパイプオルガン」の設計と運営、「宇宙虫」の音が聞こえてくる「音の野原」の整備などがある。




大地のパイプオルガン

なごや音名所プロジェクト
1989年7月 事業依頼者:世界デザイン博覧会協会(サウンドスケープデザイン研究機構*) 「わがまちらしさ」を感じる音の風景を広く市民から募集し、「名古屋の音名所」を選定した事業。プロジェクトの企画内容から、募集のしかた、選定に至るまでを担当した。目にみえないもの=音の保存、規制、創造も環境デザインのひとつの領域であることを主張し、同時に、市民に対し広く募集を行うことで、人々の音に対する意識を高めるという環境教育的意義をもつことも期待したもの。





水琴窟の東屋
1989年7月 事業依頼者:世界デザイン博覧会協会(サウンドスケープデザイン研究機構*/坂茂建築設計) 平成元年、名古屋市で開催された世界ザイン博覧会白鳥会場において、日本庭園の伝統的なしつらえである「水琴窟」を遮音性の低い紙を素材にした東屋の内部に設置する「水琴窟の東屋」を企画・設計した。紙管の東屋によって、視覚的にはできるだけ景観を遮断する一方、聴覚的には開かれた空間をつくり、来場者が水琴窟のかすかな水滴音に耳を傾けることによって、外界の車の騒音や会場内の雑踏など、自分の周囲の音環境にも耳を開き、都市の音環境に対する意識を高めようとしたもの。




水琴窟の東屋

音の種
1990年4月 事業依頼者:国際花と緑の博覧会協会(サウンドスケープ研究機構*/福田繁雄) ハルニレ、アカマツ等、身近な樹木の木子種の形をそのまま巨大化した野外彫刻の中に音を入れた音響彫刻。彫刻に触れて音を聴くという、特殊だが積極的な「音を聴く」という行為、またその音を聴いている人々の姿をみて、興味をもち、近づき、自分も聴いてみようとする「心の動き」や「姿勢」など、人間の「聴く」という行為そのものをデザインしようと試みたもの。



音の種

音の見晴らし台
1990年4月 事業依頼者:国際花と緑の博覧会協会/NHKサービスセンター(サウンドスケープ研究機構*) 望遠鏡で覗いた遠くの風景の音がその場で聞こえてくるという仕掛けの「音の見晴らし台」。会場内外に設置したマイクの集音した音をリアルタイムで見晴らし台に送るという、音の特性を生かしたメディア・ネットワ-クを展開し、見た目の景観とともに聴覚的にも風景を体験できるようにしたもの。



音の見晴らし台

耳のオアシス
1991年7月 事業依頼者:杉並区まちづくり推進課(六角鬼丈計画工房/鳥越けい子アトリエ*) 杉並区の散策道「知る区ロ-ド」のルート沿いにつくられた、音をテ-マとしたポケットパ-ク。鳥の声、風の音、周囲の竹林の響きなどを聴くため耳の形をした7つの遊具を設計・配置した。装置は、「のぼるみみ」「ぶらさがるみみ」「かがむみみ」など、音を聴くために何かしらの身体的運動を伴うように工夫を施し、音を聴こうとする姿勢によって、その他の五感、新たな感覚が呼び覚まされるようにした。「聴く」という行為そのもののデザイン、さらに音を聴くことによって得られる新しい感性の開発をねらいとし、それによって気づくことのなかったまちの魅力、地域の環境文化資源の再発見を提案した。




耳のオアシス

瀧廉太郎記念館庭園音環境計画
1992年4月 事業依頼者:大分県竹田市(木島安史+YAS都市研究所/鳥越けい子アトリエ*) 大分県竹田市の瀧廉太郎記念館整備事業において、記念館の庭園整備・設計を行ったもの。廉太郎にゆかりのある人々へのヒアリング調査や街のフィ-ルドワ-ク調査、廉太郎に関する文献調査等による成果をもとに、廉太郎が聞いていたであろうと思われる庭の響きを、日本の伝統的な作庭技法によって再現し、旧宅や竹田の街での廉太郎の音風景体験を小冊子と「廉太郎マップ」にまとめ、記念館を出た後も、来館者が竹田の街を音の視点で巡ることができるようにした。






瀧廉太郎記念館庭園音環境計画

音環境とデザインの新たな地平:
バウハウスからサウンドスケープへ
1994年10月 事業依頼者:東京ドイツ文化センター (サウンドスケープ研究機構*)ワイマールにおけるバウハウス創立75周年を記念する催しのひとつとして、東京ドイツ文化センターが主催した事業。WSP(世界サウンドスケーププロジェクト)元メンバー・ヒルデガード・ウェスターカンプ、ビデオアーティスト・山口勝弘(神戸芸術工科大学教授・当時)等を講師として、サウンドスケープ思想の基本的な考え方、世界各地の都市の調査やそれに基づく作品その他のプロジェクトを紹介すると共に、東京のまちのサウンドスケープを体験するワークショップ等を企画し5日間にわたって開催した。






バウハウスからサウンドスケープへ

富山県立山博物館:五響の森まんだら遊苑音環境デザイン
1995年7月 事業依頼者:富山県立山博物館(六角鬼丈計画工房/鳥越けい子アトリエ*)富山県立山山麓芦峅寺にある立山博物館の野外施設、別名「曼荼羅遊苑」の地界から天界にいたる全体計画において音環境計画を担当したもの。江戸時代の末まで、聖山のひとつとして栄えた立山信仰に基づき、立山の自然と文化における音環境資源を発掘しながら音環境演出として展開することを通じて、我が国の近代化の課程で忘れ去られた五感の文化の再生をめざした。




五響の森まんだら遊苑音環境デザイン

風聴亭
2000年 (自邸:大塚聡/山中工務店)自邸設計の基本構想において、サウンドスケープの考え方を踏まえ、昔の家の記憶や地域の気配を新しい家にいかに繋げるか課題とした。「音の見晴らしの良い家」の実現をめざすと共に、日本家屋の特徴的な音響資源として建具の音に着目し、生まれ育った家を取り壊す際に愛着のある建具を新しい家に再利用するプロセスで、大学時代からの友人でもある建築家・大塚聡と共に、山中隆太郎と清(古民家再生を得意とする秩父の棟梁父子)に出会い、その交流のなかで日本の伝統的な建築文化に深く触れる。住まいながら常に変化している。






風聴亭
SCAPEWORKS百軒店-円山町
2009年4月- 青山学院大学総合文化政策学部の鳥越研究室に立ち上げた「渋谷百軒店ミュージアムプロジェクト」を拠点に、地元の人々の協力のもと、交流のあるアーティストやデザイナーたちと、学生たちを巻き込みながら、新しい風景を創り、地域の力を引き出していくためのいくつかのユニットからなるイベントを企画・展開。2016年からはフィールドを神泉円山町に拡大し、この地域の環境文化資源を発掘・発信するプラットホームとして展開。






SCAPEWORKS百軒店-円山町

池の畔の遊歩音楽会
2010-2019 (池の畔の遊歩音楽会チーム*)杉並区JR西荻窪駅から都立善福寺公園にかけてのエリアを舞台とする国際野外アート展「トロールの森」への参加を契機として、2010年から継続して展開しているプロジェクト。善福寺の池は、なぜここにあるのか? ここでは、これまでどのような出来事があったのか? 池の畔を歩きながら体験する各種の活動・パフォーマンスが、土地の記憶を呼び覚まし、その歴史を紐解き、この地域の風土に想いを馳せる不思議な音楽会。音楽会を継続するなかで、地元をフィールドにした調査・まちあるき・シンポジウム等を企画・実施するようになった。






池の畔の遊歩音楽会

瀧廉太郎記念館:リニューアルプロジェクト
2012年 事業依頼者:大分県竹田市(鳥越けい子/鷲野宏デザイン事務所)瀧廉太郎記念館20周年を記念したリニューアル事業全体の監修と展示と小冊子におけるテキスト作成を担当。開設当初のコンセプトを踏まえ、屋内空間の情報デザインを再構成を展開するに当たり、空間設計を依頼した鷲野宏による和の空間に馴染む掛け軸型の展示方法等を採用。20年前に提案した「廉太郎が聴いた竹田のまち」をテーマにした街歩きについても新たに作成した小冊子においてより明確な展開を試みた。






瀧廉太郎記念館:リニューアルプロジェクト

池の畔の遊歩音楽会:跡地巡礼
2020年- 池の畔の遊歩音楽会 跡地巡礼2021:ブロードキャスティングウォーク
2010年から10年間執り行ってきた「不思議な儀式/遊歩音楽会」を「跡地巡礼」という形で継続展開。TransMediaWalk(2020)では、各地点に設置した垂れ幕に示したコードから歌や踊りが立ち現れる。リアルな世界の只中で「土地に蓄積された歴史や記憶」をどこまで感じることができるかを問いかけた。Broadcasting Walk(2021)では、遊歩音楽会チームのメンバー等との対話を記録した動画データを、池の周囲に点在する10箇所の跡地を巡礼する架空の放送番組として展開。






池の畔の遊歩音楽会:跡地巡礼